<あたしは海になりたい> by Rei Owada
それであたしはその男と寝た。男の何が気に入ったのか、わからない。男があたしを気に入った。男はあたしをみるたび、透明な液体の海に別々な色が視えるといった。だから何度も寝た。男が飽きるまで。あたしは飽きるということを知らないから。海の喩えはちょっとだけ気に入った。鏡をみるのに飽きたとき、あたしは海の名前を眺めて眠った。エーゲ海、アドリア海、バルト海、アラビア海、バレンツ海、ラブラドル海、ベーリング海、コーラル海、東シナ海…。白海と紅海は湾なのに黒海は湖なのね。
男の用意した猫足のバスタブで、あたしという海は今日も侵犯された。男はあたしが海の名前をコレクションするみたいに、あたしの写真やあたしの名声やあたしの幻影を売って売って売りまくった。そして真夜中にはあたしの海へ向かって精をはいた。あたしはほんとうに自分が海になったんじゃないかとその瞬間だけは錯覚を憶えた。数えても数えても、海の色は毎日違うと思った。結局、男から正解があったのかどうかはわからない。正解のような気もしないではなかったけれど、その正誤を判断できるだけの力があたしにはなかった。海は自分を海だと自覚しているんだろうか。
「ねえまだ飽きないの」
石を買ってやるといった男の言葉には、石は因果が多過ぎてきらいだと断った。ほんとは嫌いじゃないわ、男の因果が面倒だっただけ。おまえは踊っているときと喘いでいるとき以外は可愛くも何ともない女だと、男はまた適当な宙に向かって呟いた。かわりに男の舞台にあたしは立った。あたしにはまた幾つかの名前がついた。何とかの再来とか何とかの誕生とか何とかの女王とか。名前、名前も欲しくない。昨日は昨日の、今日は今日の観衆がいて、あたしがいて、誰ひとり同じ人間なんかいないじゃない。昨日のあたしは昨日のあたし。昨日のあたしを今日のあたしは嫌い。だってそれは既に他人。そうね、でも、飽くことを知らないって素晴らしいことだわ、あたしね、踊ることには飽きたことがない。
無垢な時間が過ぎて、人生は綱渡りのロープの上よ。誰も彼もが張りつめたロープの上で束の間巡り会うサーカスの男と女みたい。降りることのできない舞台がはじまるの。
☆Dance Performance
東条 奈見子
☆ゲストDJ
DJ赤貝a.k.a.湯山玲子
☆Music Performance
秋山 璃帆(トランペット)
TERRA Theatre vol.3
第3回テラ劇場
バレエ映画『赤い靴』のレルモントフに憧れて、絶体絶命な神話空間から浮遊する“テラ劇場”をデザインしました。3.29にはオールナイト・イベントとして音楽実験室・新世界にポワントで登場いたします。
今年、2013年は“テラ劇場”元年。また、舞台芸術をその前提から革新したワーグナーの生誕200周年、スタニスラフスキー生誕150周年、バレエ『春の祭典』100周年記念であり、ますます新作発表の必要性を感じているところです。ダンス部門のみならず、舞踊言語を拡張しつつ、可能性のエッセンス混ぜ和えて、新しい舞台芸術の未来への扉をひらいてゆきたい♪
第3回テラ劇場のキー・コンセプトは、《乙女から死、そして妖精へ》、サブタイトルを『あたしは海になりたい』と、ちょっとお伽噺な時空間をメルヒェンに。 ヴァルスな舞曲とミュージカルに身体を召喚するオルギーな夜。もちろん、絶体絶品な南インドTERRA Curryもご用意してお迎えいたします。
3.29(金)は、妖精の漂うダンス・パフォーマンスにつつまれて、“テラ劇場”なるステージ・イリュージョンを存分にお楽しみください♪
☆DJ
KO-Chan
Kazuyoshi NAKAMURA
☆ゲストDJ DJ赤貝a.k.a.湯山玲子
【出演】
☆Music Performance
秋山 璃帆(トランペット)
☆Dance Performance
1st : Ano Yoko
2st:東条 奈見子
3st:牧瀬 茜
※特別参加ダンサー出演予定あり。
☆Food
南インドTERRA Curry ¥500
☆開宴時間
21:00~28:00
☆入場料 Entrance
¥2,000 + ドリンク代
みなさまのご来場を心よりお待ちしております♡