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2012/10/24
こだま和文

 松永をバンドに誘ったのは寒男だった。当時、ピアニストだった前田(現ピアニカ前田)を通じて、松永と出会ったのである。
東京西部の国立市に通称「葡萄園」と呼ばれる安アパート地区があり、十棟を越える長屋風バラックのアパートが、葡萄畑の周りに小さな村を形成していた。
「ピアノ可、音大生向け」という物件だったが、トイレ共同、風呂無しの四畳半には、音大生などほとんど居らず、寒男や前田のようなバンドマンや、絵描き、ヒッピーなカップル達が住み着いていたのである。
前田は松永とのデュオで六本木のジャズクラブで週に一、二度演奏し、日銭を稼いでいたのだが、時折、国立から六本木に行く電車賃がないからと、夕暮れの葡萄畑の中をトボトボと歩いて寒男の部屋に顔を出した。寒男は寒男で、タバコ代を借りに葡萄畑を歩き、前田の部屋の窓を叩いた。前田は朝から暗くなるまでピアノの練習をしていたので、部屋の近くを通れば、居るか居ないか分かるのであった。ボロボロのドアを開けると小さな流し台があり、棚の上の洗面器の中に小銭を忍ばせていた前田は「オレも乏しいんだけどよ~」と言いながら、ヨレヨレの千円札を差し出すのだった。
松永が寒男のバンドに加わってから、ジャズクラブの仕事を終えて前田を葡萄園まで車で送るついでに、二人はほぼ毎週深夜、寒男の部屋に立ち寄るようになっていった。
三人は賭けポーカーに耽り込んだ。殺風景な寒男の部屋で薄いコーヒーをすすりながら、朝まで、時には昼ちかくまで、一枚十円と仮定したポーカーチップを賭けていくのだ。三人はマジだ。二人は仕事帰りでギャラを持っている。寒男にとってはいいカモである。 博打は怖いもので、一枚十円のチップも回を重ねるうちに、何千円、何万円
と積もり積もっていくのである。手元のプラスチックのチップが無くなると、現金を賭ける。現金がなくなるとメモ書きにして、その紙切れで賭ける。
寒男が勝ち始める。前田が、
「オメエ、せこく厚生年金かけてんじゃねえぞ」とボヤく。
「オメエら、ギャラ持ってるだろ、いただくぜ」と寒男。
「うぉ~、寒男ってとことん悪い奴だなぁ」松永は熱くなっている。構わず寒男は、
「あのよぉ~、こないだ駅前のタクシーの運転手どうしがよぉ、互いにウインドー開けてよ、ジャンケンしてんだよ、なんだろうと思ったらよ、負けた方が万札出すんだよ」
三人は爆笑する。明け方には、誰が何を言っても笑ってしまうほど、頭の中が開いてしまうものだ。が、三人はだんだん笑えなくなっていく。ポーカーから手っ取り早く勝負が着く「間」というゲームに切りかえたのだ。
アイダとは、親が、それぞれに二枚のカードを配り、残りの束ねた全カードを伏せて前に置く。二枚のカードを確認した上で、その二枚のカードの数字と数字の間に入る数字のカードを、残りカードから一枚引けるかどうかの一発勝負の賭けとなる。エースとキングを手にすれば、一番強いはずなのだが・・・。(つづく)

2012月10月24日