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2013/08/06
こだま和文

 今日は、久しく会っていなかった友人のウェディング パーティの日だ。
「藤田です。ご無沙汰しちゃて、わかりますか?」新郎の男から自宅に電話をもらった時、寒男には、この男がどの藤田なのか思い当たらず、
「お世話になった方とは思いますが、すみません、どちらの藤田様でしょうか?」とたずねた。
「もう十年前くらいになるのですが、レコード会社にいまして、その頃・・・」男が当時の事をいくつか語る間も、寒男にはこの男の顔が浮かんでこないままだった。
用件は結婚パーティに出席してほしい、とのことだった。日時と、電話番号を聞き、後程返事をいたします、と言って電話を切った。その数分後、
「寒男さんたちと花見をした時のことが・・・」
男の話を思い出した瞬間、「あの藤田か、何だそうかぁ」と閃いたのだ。
すぐに折り返し電話をかけた。
「藤田かぁ、そうかぁ判った、瓦職人だった・・・」「そうです、そうです。いやああまりにご無沙汰していましたから・・・。」
最初の電話の、他人行儀な口調から一変して呼び捨てにされた藤田の方が、戸惑ったのではあるまいか。 あの花見の時、酒を呑みながら藤田は、
「レコード会社の前は、瓦屋にいまして、屋根に瓦を葺いていた時に上から瓦が滑り落ちてきたのを取ろうとして、この指が・・・。」と話し、半分程に短くなっている小指を見せたのである。
「そうかぁ、何か訳ありのヤバイ奴かなって想像してたんだよ。でも大変だったなぁ。」
花見の事は忘れていたが、指を見せられた時の印象が、酒宴の提灯のように、ぽつりと浮かんでくるのだった。
この夏は連日の猛暑と、ゲリラ豪雨などと報道される局地的な雨や、竜巻などの災害に見まわれ、福島第一原発の地下からは高濃度の放射能汚水が海に垂れ流され続けていたことが明らかになった。人々の家や暮らし、田畑や里山、山や海を奪うだけでなく、未来をも奪う原発。
うんざりするこの夏だが、今日は少しマシな風が吹いている。子供の頃の、とまでは言えないが、レースのカーテンが涼しげにゆれていた、ある日の夏休みのような午後である。
「せっかくだから、お祝いの箸置きを作ろう」と思った。プレゼントを何にするか考えたり、買ったりが苦手な寒男は、カップルへのお祝いは、自製の箸置きと決めている。
一センチ角の無垢の檜材を五センチの長さで二本切り出す。表面と角角を紙ヤスリで軽く研く。ただそれだけ。あまりにシンプル過ぎるが、これが好い。
角材の白さと絶妙な寸法。名前も模様も無いが、形そのものが寒男のオリジナルという訳だ。
ある旦那にこれを渡した時「オレが死んだら、骨だと思ってくれよ」とわるい冗談を呟いたことがある。寒男の箸置きは軽い。
二つを小さなジップロックの袋に入れ、ポケットにしまって家を出る。

2013月08月06日