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 先日、「フローティングタンク」にはいってきた。以前から体験してみたかったがどこにあるのか分からなかった、どうやら東京は白金にこのごろ出来たというのでいこうとていかんとして行ってきた。

フローティングタンク(アイソレーションタンク)とは真っ暗で、音を遮断した、瀬の浅い小さな温水プールにぷかぷか浮かんで、あまたの感覚を遮断する箱のようなものだ。説明するのがめんどくさい時は「暗室と防音室と追い炊き風呂をあわせた物だ」といって雑に説明している。

 調べてみるとフローティングタンクというのはイルカ博士のジョン・C・リリーが開発したとあって、Wikipediaで彼の項を辿っていくととんでもない3ショットがでてくる。左から詩人のアレン・ギンズバーグ、中央が心理学者ティモシー・リアリー、そして右のおじいさんがジョン・C・リリー博士、何ともほがらかな老人達にみえる。歯に衣を着せて、キーボードをオブラートに包んで書いているが、大変スクエアで排他的な視点で語るなら男色のヒッピー詩人、LSDキメッキメ・バキバキの人、いるかに話しかけつづけるオッサン。ということになる。何ともやんちゃな老人達ではないか。

 ただの温水だと人の体は沈んでしまいそうになるので硫酸マグネシウムを水に大量に溶かして比重を上げる事で体がプカプカできるようになっている。「硫酸マグネシウム」って聞くからに恐ろしい感じだが、要はとうふを作るときに用いられる「にがり」である。
 そうおもうとなんだかこれから入っていく自分が、店先の豆腐のような気分になってきた。「宮沢賢治は川に流れるリンゴの気持ちを知りたくて川にプカプカ浮かんで流されてみたそうなのです。」という事を誰かが話していたのを聞いたことがある。事の真偽は分からないがたいした奇行ではないか。島本和彦は「想像はつくが20杯の砂糖を入れたコーヒーを実際に飲んだことがあるのか」と言ったような気がする。要は何でも「知識や情報を自分の体験に変えてみないか?」という事だとおもうのだが、このごろオロナイン軟膏の企画で「知ったつもりにならないでリアルに体験した方がいい日本の100」というのがあってあれは大変素晴らしい企画だなあと思う、あれの「読んだつもりにならないでリアルに体験した方がいいビートニクの100」とかも是非大塚製薬主催でやっていただいて「アレをやってみる」「コレもやってみる」「ソコにも入れてみる」「そこまでやるか」というのを報告した知恵と体験の財産を編み上げてほしいものである、話がそれた。

 さて、実際のフローティングタンクに入ってみて感覚について以下のような事に気がついた。

聴覚:耳鳴りに気がつく、これは瞑想している時も同じだ。日頃は気づかないが何種類かの高い音が頭の中で鳴っている、(これは人それぞれの骨格や組織がもっている固有振動数のようなものなのか、それともシューマン共振のように全ての地球上の物に共通のものなのか気になっているのだが,まだ調べていない。)

視覚:暗がりをぼんやりと見つめていると模様がみえる。自分の場合、紫色のもやのような物だ。これはどこかで見たことがある、目を閉じて考え事をしていると似たようなパターンの色や模様がでてくる。こういうのはまぶたの上を透過する色や、血管の模様がみえているのだと疑っていたこともあるが、まぶたを閉じていないので、この色や模様は何なのだということになる。視神経などにそもそもついているバックグラウンドのパターンなのかもしれないが、時間であれこれ変化したり浮かんでは消えていくのも不思議だ。

方向感覚:プカプカ浮かぶと、直立に居眠りしている宇宙飛行士がこうなのかというような気分になる。膝を抱えたり、胎児のように丸まったりしてみたいが、硫酸マグネシウムが眼に入るとギャアということになる(実際、濡れた手で目をこすってしまい大変なことになった)。ジョンCリリー博士の口上では

「神経活動の90%は、どこに重力があるのか、どちらの方向を向いているのか見極めること、そしてどう動けば倒れずに済むのかを考えることに費やされている。タンクで浮き始めると、それまでずっとしてきていた、あらゆる重力計算から即座に解放されるため、今まで分散されてきた意識の集中(無意識にも含む)が解放され、それらのすべてが一つのことに向かい集中されることに気づく、それはまるで、月と地球のどこか中間に浮かんでいて、自分にかかる引力が全くない状態だ。」

とある。なるほど。おそらく宇宙飛行の状態と違うのは内臓が重力を感じてしまっている所だろうか。プカプカ浮かんでいると、体の中の臓器達が地球中心の方向へと沈みかかってくるのを感じる。それにしても日頃はこういうのを感じないのだから貴重な体験だ。また内臓の感覚をおへその方へ調べにいくと丹田のような物を感じることができる。丹田?は内臓を乗っけたハンモックの紐を束ねている一端のようなイメージで、実際に内臓が沈み込むと引っ張られているように感じる。

 「重力とはなんと煩わしい物だろう」、という感想を持つのかと思ったが終わりの時間が近づくにつれて「重力はなんてありがたい物だろう」という考えに至った。タンク中では壁面に足をつけようと考えても、少しでも速度が残っていると壁をけって跳ね返り、頭の方向へ進んでしまうのだ。人は地球の重力を利用して場所や方向を好き勝手に決めることができる、無重力でプカプカなら場所や位地方向を意思で決定することができないのである。

 もしも重力がなかったら部屋中にポンとおいておいた物はちりじりバラバラに散らかってしまうし(宇宙ステーションでは散らからないように、マジックテープ、子供の靴についているアレと全く同じ、でいろいろ解決している。)。空気抵抗もない宇宙なら愛し合うカップルは僅かでも方向や速度が違っていると、前もって推進機でも用意していないかぎり、永遠にあいまみえることはできない。なんとも生き物には煩わしい世界ではないか。

 1時間のタイマーでタンクの循環モーターが回る、それで気がついてタンクからでてきた。となりの部屋でお風呂に入ってエプソムソルトを洗い流しておわり。(耳の中を良く洗わなかったので、大きな硫酸マグネシウムの耳垢が出来ているのか、後日いつまでも耳の中がごそごそ音がする、試される方は耳を良く洗い流す事を忘れずに。)個人的には何時間でも本当に入っていられそうだ。お水を飲みながら店長と雑談、いろいろバックグラウンドのありそうな方だがお互いそういう事は詮索しないし、してこない。考え方、来し方などでこういう物への関わり方というのは千差万別だ、「フラットな状態で体験してほしい」と曰く店長のマスオさん。お店の中の装飾物などもシンプルで先入観を排除しようと努められているのがとても自分には合う。

 やんでいた雨が少し降り戻していた。雨も空から地面に向かって落ちてきて、木々や舗道を濡らし川となって海になる(雨が空から落ちてくる時は空気をきる音がしているというが、本当だろうか?)。この日のために朝から断食していたのでお腹がすいた。重力のおかげで白金高輪の中華料理も美味しかった。重力を利用して中華鍋で何度も撹拌されたチャーハンは少しパサつきすぎていたが、そんな事はどこかに向かって歩くことができるこの夜には特に問題のないことのようにも思えた。

追記1:
フローティングタンクはマグネシウムを摂取するという観点でも面白い、体で欠乏しがちらしいマグネシウムは経口だとくだしてしまうのを、体全体で微量ながら吸収できるそうな。マグネシウムの効力はよく知らないが、とっておけば痩せたり元気になったり金運が上がったり彼女が出来たり光合成が出来たりするらしいから。とっておいて損はない。

追記2:
白金フロートセンター:http://floatcenter.jp/

追記3:
新世界でRudeflowerとタカツキのダブポエトリーのセッションは2月15日土曜日。自作詩に加えて、中島らもの随筆集のあとがきも朗読しようかと思っています。楽しみです。
more info→http://shinsekai9.jp/2014/02/15/dubpoet2/

2014月02月03日