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●10/24(土)「Mémoire de Barbès1」
Codex Barbès × SLY MONGOOSE
http://shinsekai9.jp/2015/10/24/memoire-de-barbes/
●11/20(金)「Mémoire de Barbès2」
Codex Barbès × 松竹谷清トリオ(with エマーソン北村、山口大輔)
http://shinsekai9.jp/2015/11/20/memoire-de-barbes-2/

インタビュー、テキスト/エンドウソウメイ

 自他共に認める“ロック・トロンボーン・マスター” 増井朗人が、「音楽性、演奏力両面で世界基準のインストバンドを始めた」との情報を筆者にもたらしたのは、旧知の先鋭的某音楽プロデューサーからだった。
 映像配信先行でのSNS拡散と、増井本人の長く確かな音楽キャリアを敢えて一旦消し去るような時代に最も則した情報伝播により、この新たなるユニットCodex Barbès(コーデックス・バルベス)が彼の音楽活動の一旦の集大成の始まりだということをより鮮明にした。
 10月、11月と連続して行われる待ちに待ったライブ始動を機に訊きたいことは山程ある
 トロンボーン3管、和太鼓2台、チャップマン・スティックという世にも不思議なバンド編成。しかも楽曲も遥か遡る中世のものも複数含まれている。
 筆者の頭中を多くの謎で埋め尽くすコーデックス・バルベス。論理派ミュージシャンとしても知られる増井朗人が明確な道筋でその謎を解き明かす。
※そして、先日逝去したレジェンド、リコ・ロドリゲスについても「番外編」として、最後尾コメントを頂いた。そちらの方も是非一読ください。

エンドウソウメイ(以下エンドウ):増井さんの新たなユニット、コーデックス・バルベスですが、ネット動画先行ということも新鮮でしたが、第1弾が600年前の中世の楽曲『ステラ・スプレンデンス・イン・モンテ』ということにも驚かされました。後に、中学生の頃からこの辺の音楽がお好きだったことや、歴史に関しての造詣が深いと知る訳ですが。

増井朗人(以下増井):歴史は好きなんですけど(笑)それとはあんまり関係ない(笑)

エンドウ:でも、掘り下げる体質は元々ある(笑)

増井:なのかな〜?(笑)
小学生の頃、オーケストラにいたんです。だけど、馴染めないというか……。

エンドウ:以前、松永(孝義)さんの追悼インタビューの際にお訊きしたように、バロック音楽は幼少からお好きだった。

増井:そうですね、バロックはその頃もう聴いていましたね。

エンドウ:ですので、歴史体質(笑)がさらに前史を掘ってしまったと(笑)

増井:中学の頃は世間的にもその辺はいっしょくただったんですよ。
バロック以前=古楽。
今でもやっているのかな?NHK-FMで『朝のバロック』って番組があったんです。30分〜1時間くらいの番組だったのかな?それを学校行く前に毎日聴いていた。
バロック時代の音楽は勿論、ルネッサンスのものもあるし、中世のものもある。中世のものを聴くと、「なんじゃ〜こりゃ〜???」、「これどうなっているの?よくわかんね〜??」ってものがあるんですよね。バロックと全然違うんです、こっちは民族音楽。バロックはクラッシック音楽だから。

エンドウ:成る程。
中世音楽も教会の影響下にありますよね?

増井:中世の音楽は勿論、教会から派生しています。

エンドウ:増井さんが今回のユニットの根幹部分に据えているダンスも収穫祭等やはり地域の教会からの派生?

増井:ええ、この頃のダンスミュージックは、村の踊りか貴族の踊り、この多分2種類。
当然、村のものは記録があまり残っていない。民間のものっていうのは。

スクリーンショット 2015-09-08 1.31.27のコピー
第1弾PV『ステラ・スプレンデンス・イン・モンテ(Stella splendens in monte)』
https://www.youtube.com/watch?v=8IcBrDLqhe8

エンドウ:実は第1弾の『ステラ・スプレンデンス・イン・モンテ』を聴いた時、その静寂の中の仄かなスピリチュアル性に深く聴き入ってしまって、ダンスミュージックの側面を聴き逃していたんです。
第3弾のオリジナル曲『エスタンピー・ドゥ・バルベス』の曲調と、タイトルの“エスタンピー”が 楽式名称で、しかもダンスと密接な楽式と知り、やっと根底にダンスを深く意識したユニットだと知ったんです。

増井:ある意味そうなんですよね。
でも、一番最初の『ステラ・スプレンデンス・イン・モンテ』を撮った時はそこまでは考えてなかったんですけどね(笑)

エンドウ:そんな僕が、今更言うのもおこがましいですが、無意識かもしれませんが、最初からダンスの概念があったと今聴くと思います。

増井:あの曲を打楽器を入れてやるスタイルってあんまりないんです。元々、歌2声の譜面しかないので。
で、それに和太鼓を入れるとなると、やはりリズムをどう絡めるか。
どのリズムにしたら一番気持ちいいのか?そこでは和太鼓という視点は敢えてないです。
例えばあれは、“ドン、ズドーン、ドン。ドン、ズドーン、ドン。”っていう。そういうリズムが一番はまってくる。3-3-2ってリズムが一番はまってきたりして。
昔のそういうものって教会絡みではあるけど一種の民族音楽。ヨーロッパの民族音楽。
レゲエだって元々のラスタのチャントなんて民族音楽そのものだし、
極論としてサルサ、ショーロを民族音楽と言っても差し支えないと思うし。アフリカにもルンバロックとか、ズールージャイブとかいろんなのがある訳じゃないですか。そういうもの全てが僕の中では価値が一緒なんです。

エンドウ:コーデックス・バルベス始動にあたり、「音楽の横の繋がりから、縦へとシフトを変えてみた」的な増井さんの発言がありましたが、今、ご説明頂いたのはその横の繋がりですよね?

増井:まあそうですね。
『ステラ・スプレンデンス〜』の動画を作った時はその縦の方向だけを持って来て、「和太鼓混ぜたら」、というか、「和太鼓とやるなら何が一番いいかな?」ってのを探した時に、自分の原体験的なあの楽曲を持って来て、

エンドウ:では、和太鼓との合奏って発想はコーデックス・バルベス始動以前にあった?

増井:ハハハハ(会話速度の間合いを調整するような余裕の笑い)
順番から言うと、和太鼓との合奏って発想が以前からあった訳ではありません。
たまたま、今回の一連の動画の制作者(河島佳名子)がGOCOOに和太鼓を習いにいっていた。その流れでGOCOOのライブを見に行って(櫻井)春奈ちゃんと知り合うんです。その後、「なにか一緒にやりたいね」って3人で話をしている中で、あまり多くの人が聴かない中世の音楽を聴かせてみたら、「私、こういうの好き」って(笑)
何故そんなに即反応したかっていうと、彼女はモロッコに行ったりするのが好きで、

エンドウ:PVでの、あのモロッコの金属製カスタネット?

増井:カルカベ。

エンドウ:効果的でしたね!

増井:うんうん。
その辺のヨーロッパの匂い、どうも彼女と僕が近いんですよね(笑)
アラブには残っていてヨーロッパではクラッシックになっちゃっているもの。その辺が共通点になるから、一緒に作るなら、「これを起点に作って行けば面白いかな?」ってことですね。

エンドウ:へ〜、そういうユニットの成り立ちもあるんですね(笑)
人ありきというか?

増井:「絶対こういうことやりたい!」とか、「和太鼓とやりたい!」とかそういうのはなかったんです。

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増井朗人

エンドウ:お二人での制作の過程の中で増井さんがリズムマシーンで打ち込んだ音で春奈さんにイメージを伝えるという部分があったと思うんですが、ドラムセットで云うところのリムショットを和太鼓でやると本当に強力で、かの名器TR-808と近い部分を僕は連想してしまったのですが。

増井:あれね(笑)
ヤオヤ(TR-808)の感じは僕も頭の中にあったし、あとはレゲエで“ツゥン、カァン。ツゥン、カァン。”ってのが“カツン!”とくるのは、スネアをバァ〜ンって叩くんじゃなくって、カァンって入るのは僕に執っては太鼓って楽器の一番鋭い部分。
和太鼓のそれは更に強烈(笑)カツゥ〜〜ン!ってくるんで!(笑)
「これは使わない手はないな」と。

エンドウ:素晴らしい発想です。

増井:近年のブラックミュージック、ヒップホップ以降の打ち込みであの音質って重要じゃないですか?重たいスネアではなく“カツン!”ってくる、リムの固い、「これ木を叩いてんじゃないの!?」っていう。あれ良いじゃないですか。

エンドウ:同感です。

増井:その辺も根底にあって、「和太鼓ならそれが出来るな」と。

エンドウ:あれは凄い発見です!
前後してしまいますが、名は体を表すではありませんが、ユニット名コーデックス・バルベスも『ステラ・スプレンデンス〜』の時点で既にコンセプトが完了している部分がありますよね。
コーデックス=手写本、又は写本。バルベスは増井さんが愛して止まないパリの異種交配したストリート。

増井:危ない場所ですよ、キングストンみたいな(笑)
でもそこが一番好きなんです、僕(笑)

エンドウ:アフリカ系の人が多い?

増井:アフリカ系、アラブ系が多い。
なに人だか分からない、要するにトルコから東の南みたいな。

エンドウ:複雑なリズムが飛び交っていそうですね(笑)
戻りますが、『ステラ・スプレンデンス〜』の時点で完了しているというのは、約600年前の1399年に制作された写本『モンセラートの朱い本』に納められた曲なんですよね?『ステラ・スプレンデンス〜』は。

増井:その通りです。
実は最初ユニット名は「コーデックス」だけにしようか?とも思ったんです。そうしたら、「コードエックス」っていうメタル系のバンドがあるらしいんですよ(笑)ギターが有名な人で。

エンドウ:ハハハハ(笑)

増井:なんで、バルベスをくっ付けて。
“バルベス”には僕の空想の中の匂い?記憶?そんなものが繋がってゆけば。

エンドウ:その“バルベス性”?写本時代に関する増井さんのコメントなんですが、「この時代の譜面には、短調、長調と切り離れた自由度があった」と。

増井:教会旋法のことですね。

エンドウ:短調、長調はクラッシック楽曲のタイトルに付く。
例のあれからの脱却ですよね?

増井:教会旋法はそれの基になったものなんですよ。

エンドウ:はい、ですよね、時代を遡れば。

増井:当初は5種類。途中で、倍の10になって、さらに12になって、

エンドウ:すいませんその数は何をさしていますか?

増井:旋法、モードですね。

エンドウ:ジャズのモード奏法と、

増井:同じなんですけど、それのやはり基ですね(笑)
使い方はかなり違います。こっちの方がかなりアバウトです。

エンドウ:では、この時点では“コード”という発想はない?

増井:ええ、当初はないですね。

エンドウ:では今回の中世の楽曲に関しては、コード概念をまず増井さんが付けてからメンバー間で共有?

増井:そうですね。
でも、最初はメロディーなので、メロディー作って、それにはまるコードを付けて、

エンドウ:重複しますが、コードの概念に一旦落とし込んでという、

増井:うん、うん。

 和太鼓は和からの脱却、そして、いにしえの教会旋法を紐解くことで、より一層の自由度を楽曲に与える?
 いやいや、そんなイージーな解釈でコーデックス・バルベスの音の根幹が分かるはずはない。
 何故なら筆者が第1弾PV『ステラ・スプレンデンス・イン・モンテ』で感じた音楽深度は尋常な深さではなかったのだから……。

エンドウ:第1弾の『ステラ・スプレンデンス・イン・モンテ』が600年前、第2弾『パレスチナの歌』に於いてはなんと800年前と、どちらもカヴァー曲の宝庫、権化だと思うのですが。
変な言い方ですが膨大な過去との戦いでもありますよね、ニューアレンジということでは。

増井:まあ、そうでしょうね(笑)
でも逆に言うと、ヨーロッパ、そして南米でも、要するにキリスト教が強い文化圏では著名な曲なんで、検索に沢山引っかかるみたいなんです。最近知ったんですがリッチー・ブラックモアもその辺の音楽をアプローチしているんですよね。

エンドウ:言われてみればやりそうですね(笑)

増井:ヨーロッパ系、カトリックの強い南米系、その血を引いている人達は自分達のルーツミュージックみたいな感覚なんじゃないですかね?それで、20世紀になって再発見された曲だから余計ですよね。且つシンプルで分かりやすい。実際最初の2本の動画に関してはいろんな国の人が見に来てくれていますし。

エンドウ:それは素晴らしい!

増井:海外からの方達がコメントも書いてくれたり。

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 当初、コーデックス・バルベスのリアルは、増井、春奈の2人を除きこの世にないものだった。その存在はネットの海にしかなかった訳だ。
 だが、動画本数が進むにつれ逆のリアルがネットに表出する。
 メンバーの増殖と共に、増井本人のメンバーへのインタビューにより、其々の増井との距離感がリアルなキャラ立ちへと結びつく。「へ〜、コーデックス・バルベスってこんな人達の集まりなんだ」と視聴者に刷り込まれていった。
 そして、それはメンバー以外の人々にも及ぶ。増井をハブ電脳としたオルタナティブなコーデックス・バルベスな人々の増殖。

エンドウ:いみじくも世界戦略ともなった今回の映像先行発信に関しては、当初から既にその伝播方法は考えていたのでしょうか?
音楽と映像のクオリティーは勿論、今のYou Tube時代に非常に則したやりかただと当初から私は思っていました。
回を重ねると共にメンバーが増殖する部分、エンジニアをはじめユニットのコア周辺の方々までとりこんだキャスティング等非常に番組としても楽しませて頂いています。

増井:増殖に関しては完全に意図的ですね(笑)

エンドウ:更に、映像監督の河島さんの色彩設計がユニットの持つ湿度を端的に表していて素敵です。

増井:当初3人、春奈ちゃんと河島佳名子ちゃんとのやりとりの中で、「色を付けるならモノトーン中心で」と。モノトーン、あとセピアとか、その中間とか。
でも2本目の動画では階段の手すりのみ赤を挿してみたり。これだけは、「わざとこれ入れちゃおうか」と。

エンドウ:あれも効果的でした。

増井:相当苦労して編集してもらったんですけど。

スクリーンショット 2015-09-08 1.33.03のコピー
第2弾PV『パレスチナの歌(Palästinalied)』
https://www.youtube.com/watch?v=RsX0b0peHig

エンドウ:今、意図的だったと告白されましたが、楽曲の配信ごとに楽器の編成が増えてゆきます。最初期のお二人の時は、和太鼓に増井さんが2管を重ねて。
で、よく聴くと小さくコード音が鳴っています。あれはキーボード?増井さんが弾いているんですか?

増井:あの時は、僕がパソコンのソフトでエレピを弾いたのが背景になっています。
あれがないと、クラッシックの人達がやった『ステラ・スプレンデンス〜』に近いものになると思う。言い換えれば、コードってものを考えないで演奏すると。

エンドウ:成る程、先ほどの古楽のお話とも繋がりますね。

増井:単純にあのメロディーから出て来るコードって僕が弾いているものよりもっと単純なんですよね。その単純なコード付けっていうのは、重複しますがいわゆるクラッシック系の人達がやっているもので、古い弦楽器リュートを使って“ボロ〜ン、ボロ〜ン”って弾くのは実は一杯あるんです。
そうじゃなくって、ハウスとか、要はヒップホップ以降の美味しい部分って実はエレピとかの微妙に曖昧なコード感。ジャズ的に聴こえるけど完全にジャズではないとか。お洒落だけどそれだけではない響きに不思議な感覚がある感じ。そのコード感を背景に継続して鳴らしているってのが重要だったりする訳です。

エンドウ:厳密には3役こなしていたんですね。

増井:うん。
そういう色を入れると、過去膨大にある『ステラ・スプレンデンス〜』とかなりの異差化が謀れるだろうなという。
だからメロディーからかなり複雑にコードを組み合わせて指運しているんですよね(笑)
一番下の部分は循環進行に聴こえるようにはしてあるけど、上の乗せ方はメロディーに当たらないようにだけど、完全な3度を感じさせないような。
(実際に指運のポーズをしながら)“4度、4度、4度”とか、“5度、5度、5度”風に、“4度、5度、4度”とか感じるようなコードにして動かす。

エンドウ:私は、その辺の隠し味?に、斬新さを感じたんでしょうね。古いんだけど新しい、新しいんだけど古い。不思議な音でした。

増井:へぇ〜。

エンドウ:PVの配信、メンバー紹介に止まらず、増井さん自らレポーター、インタビュアーとなり、エンジニアや、お弟子さん筋のワインのエノロゴをやっている方や、トロンボーンのマウスピースの達人開発者の方等、

増井:ああ、インタビューシリーズね(笑)

エンドウ:MCが非常に上手で驚きました。
で、あれも含めてコーデックスであると。

増井:そうなんですよね。そういう人達がいないと本当に出来なかったユニットだから、「その辺もひっくるめて出しちゃおう」と(笑)

エンドウ:昔のロックバンドって、よく専属の作詞家とかいませんでした?キング・クリムゾンとかプロコル・ハルム等。メンバー同等の扱いで。そんなことを思い出しました。

増井:あぁ〜あ。はいはい(笑)
スリルの最初だって式田(現シキタ純)さんが、

エンドウ:マッドコンダクター(笑)

増井:音楽やる人でもなんでもない。ただ派手な格好して叫ぶだけの親父(爆笑)

エンドウ:ガハハハハ(爆笑)確かに。

増井:でも、それがいるからなんか面白いんですよね。
スカパラも(クリーンヘッド・)ギムラがいたから圧倒的な感じがあったってのもありますよね。

エンドウ:ライブではその手のキャラは非常に重要です。
コーデックスに関してもインタビューシリーズのウィリーズ・カスタム・ブラスの中込昌仁さん編では言いきっていましたよね?「中込さんのロックスター(マウスピースの名称)がないとコーデックス・バルベスは出来ない」と。

増井:そうなんですよ。他のじゃね〜。

エンドウ:他のバンドのサポートの時は別メーカーで?

増井:いや、今はね〜、ロックスターシリーズの中で使い分けています。例えば固い音が非常にいける奴を選ぶとか。

エンドウ:コーデックスはこの辺中心でとか?

増井:そうですね。レコーディングの時は曲によって使い分けてますし。

スクリーンショット 2015-09-08 1.30.29のコピー
Codex Barbès/チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCvvQdSS9xuZCFA9Cb782AsQ

エンドウ:歴史通の増井さん故に第2弾となった『パレスチナの歌』のいわくについてお訊きしたいのですが。
一連の十字軍遠征の中の1228年の破門十字軍がパレスチナに入った時の曲ですよね?

増井:うん、そうですね。
でも、楽曲を書いた本人、えっと……、

エンドウ:凄い長い名前の、……、ヴァルター·フォン·デア·

増井:フォーゲルヴァイデ(笑)という人が、

エンドウ:ガハハハハ(爆笑)

増井:あの〜〜(笑)……、本人は神聖ローマ帝国皇帝(フリードリヒ2世)に仕えていたみたいなんだけど、遠征には同行していない、

エンドウ:えっ!?行ってないんでしたっけ?

増井:おそらく行ってないだろうと謂われて、その辺はっきりしないんです。

エンドウ:僕の一夜漬けの教養ですと同行したと……、

増井:うん、あれ諸説あるんです。
ただ、その時は無血開城に近い形。戦をせずに交渉だけで、「ここを〇〇年使わせてくれ」という承諾を血を流さずにエルサレムをヨーロッパが使用出来るようになったっていうのを記念して作られた曲です。

エンドウ:あと、興味深いのがフリードリヒ2世って音楽好きで、フルートも吹いていたらしいですね。

増井:て言うかね、この時代、もっともっと後のバロック時代くらいまでは王様たちは皆、楽器やるので。
音楽、哲学、神学等6種は必須なんですね。

エンドウ:帝王学の一環?

増井:そう。
大学等行って修めるのがその6種で、お坊さん等も皆、音楽出来るし。

エンドウ:今のお話を聞く限り、この時代って音楽的に芳醇な時代だったんですね。

増井:今より、もっと一般的だったんでしょうね。

エンドウ:その中でも後世まで聴き継がれた、『ステラ・スプレンデンス・イン・モンテ』、『パレスチナの歌』だからこそ、色あせない魅力を感じる。

増井:うん、そうかもしれませんね。

チャップマン

エンドウ:さて、本題の『パレスチナの歌』アレンジですが、またもや増殖してここで管が1管増え、更にあまり見慣れない弦楽器チャップマン・スティックが加わります。
コード楽器は色々ありますが、キーボードでもなく、リュートでもギターでもなく。まあ、ベースとギター両方守備範囲であるユーティリティ性がまずあったんだとは思いますが。

増井:はい、それは確かにありましたが、まずは見た目が変だと(笑)

エンドウ:あと、担当されているtakashiishiwataさんのルックスと相まって(笑)彼こそ海外受けしそうですね(笑)

増井:彼は僕と地元が一緒で、優秀だと思っている何人かの一人。
チャップマン・スティックはもとよりギターもベースも出来る。非常に音にうるさい奴、僕よりもっと音に関して右寄りなんで。

エンドウ:ガハハハハ(爆笑)右寄り(笑)

増井:ガハハハハ(爆笑)僕より遥かに右寄り(笑)
あと、こういう音楽を、ドラム、ベース、ギター、キーボードというものを使ってやると、僕は凄くダサいものしか出来ないと思うんですよ。
例えば70年代ならそれはありだったと思う。プログレってそうだったじゃないですか。

エンドウ:確かにそういうバンドもいました(笑)

増井:さっき触れたリッチー・ブラックモアがやっているアプローチもある種そういう流れですよね。
彼の場合、それはそれで全然いいんですけど、今の、やっぱりレゲエだとか、ヒップホップだとか、ハウスとかが既に出ている後に70年代のプログレ的編成でやるのはダサいだろと。

エンドウ:非常に同感です。

増井:ではどういう編成でやるかといったら、まず、最初からドラムではなく和太鼓。ここで既にラッキーだったなと。
ベース、ギターは今後どうしても欲しかったら使うけど、それ以外では?となると、「ああ、チャップマン・スティックかもしれない」っていう発想ですね。

エンドウ:今の順序立った説明で非常に腑に落ちたんですが、正直最初は、「何故にチャップマン・スティック?」と思いましたね。

増井:あっそう?(笑)
それこそ、Facebookとかに情報上げたら、「この楽器何なんですか?ギターですか?ベースですか?」って。場合によっては、「民族楽器ですか?」なんてのもあって(笑)

エンドウ:現代の楽器ですよね?

増井:そうです。70年代くらい。
僕が最初にこの楽器と出会ったのはトニー・レヴィン。再結成キング・クリムゾン、

エンドウ:“象の鳴き声ギター”のエイドリアン・ブリュー在籍時?

増井:そう。ドラムがビル・ブルーフォード、そして大ボス(ロバート・フリップ)がいて。
4人編成でベースじゃない時にチャップマン・スティックを弾いて、「これ何!?」っていう(笑)

エンドウ:ありました、ありました(笑)

増井:不思議な音が出ていて、ギターじゃないし。
あと、バカボン(鈴木)さんが弾いていましたね。

エンドウ:そうらしいですね。

増井:でも、それ以後あまり使っている人を見かけなくなり、今回、これ使ってみたいなと。

エンドウ:コード部分の民族楽器的アタック音が増井さんのセレクト、作曲した楽曲のメロディーと非常に相性がいいですよね。

増井:そうですか。

エンドウ:古楽器的というか?

増井:不自由だという部分がその感じを醸し出しているかもしれない。

エンドウ:あ〜、成る程。

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第3弾PV『エスタンピー・ドゥ・バルベス(Estampie de Barbès)』
https://www.youtube.com/watch?v=UwbrhRz_3gg

エンドウ:さて、第3弾PVで遂にオリジナル曲となりました。
タイトルですが、直訳で「バルベスのエスタンピー」ってことでいいのでしょうか?

増井:そうです。

エンドウ:エスタンピーって確か、楽式、構成を表す音楽用語ですよね?
その楽式に忠実に、というよりも、あくまでも意訳として使用していますよね?

増井:そうそう、その辺は無視して。

エンドウ:「コーデックス・バルベスが考えるエスタンピー」的な?

増井:うんうん。

エンドウ:この楽曲からチャップマン・スティックのベースラインに強力にグルーブ性が感じられるようになったと思うのですが。

増井:そうですね。
『エスタンピー・ドゥ・バルベス』から完全にtakashiishiwataにベースラインを任せちゃったんですよ。
この曲ってコード4つくらいの単純な循環で、リズムはちょっとボサノバを感じさせる和太鼓。
でも、実際、彼はプログレ好きで(笑)

エンドウ:へぇ〜(笑)

増井:なので、彼は、ブラックミュージックは経由していないんです。

エンドウ:成る程。

増井:まあ、僕としては、それは狙っていた部分でもあるんですが(苦笑)
要は黒い音楽をあんまり知らないリスナーも、「気持ちいいな〜」って感じられるベースラインが欲しかったんです。
あと、普通のベースなら4度積みとかになっているんですが、その4度積みとチャップマン・スティックのレギュラーの5度積みの違い。普通のベースとチャップマン・スティックでベースラインを演奏する場合の、やりやすい、やり難いって違いがあって、

エンドウ:過去聴いたボサノバ系のランニングとは相当に違う、不思議なベースラインです。

増井:うんうん。
「こりゃ〜面白いな!」、「はまったな!」って感じですね(笑)

エンドウ:今朝程、更なる新曲を複数聴かせて頂いたのですが、急激な楽曲の進化に関し、この『エスタンピー・ドゥ・バルベス』が分岐になった気が非常にしたのですが。

増井:確かにそうですね。

エンドウ:3管、2和太鼓、チャップマン・スティックとの現状の最終形が揃ったという部分も勿論ありますが、ダンスという根幹も固まりつつある。

増井:勝手に、「この編成でやるブーガルーってこんな感じ」って楽曲もあったでしょ?(笑)

エンドウ:タイトルをまだ知らないので(後に『エインシャン・ブーガルー/Ancien Boogaloo』と知る)感知できなかったんですが、あれブーガルーだったんですね(笑)

増井:トロンボーンがどんどんどんどん交代しながら、ずっ〜とメロディーが変わって行って。結構、ガッ〜って音で2人がソロやって。メロディーが重なって行って(立て板に水の調子で)

エンドウ:新曲の進み具合いも順調ですが、今朝聴かせて頂いた新たな楽曲は、オリジナルとカヴァーの割合はどのように?

増井:あの音源は、『ステラ・スプレンデンス〜』を録り直した以外は全部オリジナルです。

エンドウ:では5曲新たに新曲?

増井:断片としては20数曲あって。
去年の年末から今年のお正月にかけてその中から5曲に絞って。
絞るのが大変でしたけどね(苦笑)

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 ダンスビートとしての強度が更に進む新曲も出揃い、遂に10月、11月と待望のお披露目ライブが西麻布『新世界』にて行われる。
 初ライブに関し今、増井はどの点をコーデックス・バルベスのライブ環境での課題としているのだろうか?

エンドウ:さて、遂に待望のライブ始動となりました。
老婆心ながら、このオンリーワンの編成、

増井:PAは難しいですよね(苦笑)

エンドウ:ですよね〜、バランスが非常に難しいそうです(笑)
普通に考えたら、新世界の箱サイズだと和太鼓は略生音?

増井:うん、だろうな?と思うんですけどね。

エンドウ:チャップマン・スティックの繊細な部分が和太鼓に負けないか?トロンボーンは実音が大きいので大丈夫か?とか。

増井:とはいっても、PAで稼いでもらわないと和太鼓には流石に負ける。

エンドウ:うん、確かにそうですよね〜。
過去の増井さんのパーマネントのバンドで、一番ライブでの音響が、
難しいんじゃないですか?(笑)

増井:難しいんじゃないですか?(笑/略、同時にハモって)
まあ、他人様が集団で和太鼓をやっているのを見に行って、凄くいい時もあるし、同じグループでも箱のサイズで相当に変わりますからね。
今回レコーディングで実際にマイクを自分で立てて録ってみて、本当難しいんですよね。

エンドウ:でしょうね……。
アレンジ等のライブ想定は、当然、「ライブをやる」と決定した時点で考え出しますよね?

増井:そうですね。
居る人間だけでレコーディングをすると、厚み、変化を出せなくなっちゃうんで。
今回、特に単音楽器が3人と通常より多いじゃないですか。非常に微妙なバランスだから、どうしても太鼓以外にパーカッションだとか、チャップマン・スティック以外にエレピを入れるだとか、アコギを入れるだとか、ってことをやらないと(苦笑)
でも、ライブはその辺をある程度は、はしょってやらないといけない。

エンドウ:僕のようにレコーディング音源でファンになった人間は、その引き算も楽しみですし、エモーショナルな部分での足し算も楽しみです。
あと、対バンも相当に今回豪華です!
前述にも通じますが、いみじくも、音楽の横の混ざり合いの妙の極地2バンド。

増井:対バンの選考に関しても、やっぱりリズムですね。
僕の頭の中では、中南米とかアフリカの古いのだとかヒップホップ以降のものだとか。ヨーロッパの古いもの、東ヨーロッパも含めた。アラブだとか、いろんな面白いリズムが一杯あって、それに付随した面白いメロディーも一杯あって。そういうものを抽出してスープにしたような人達と一緒にやりたかった。

エンドウ:複数名前の出たバンド全てがそういう志向の方々でしたものね。
そんな中、歌ものの最高峰(松竹谷清トリオ)と、インストの最高峰(SLY MONGOOSE)に決まったと(笑)

増井:うん、そんな感じですね(笑)

 両日ともイベントとしては音楽のマージナル境界ギリギリの2バンドによるせめぎあいは勿論、その全容を表すコーデックス・バルベスの現状予測不能なパフォーマンスに大注目!
 含み多いシンプルなラストアンサー「そんな感じですね」に、増井の今の心中、「撰ばれてあることの恍惚と不安と二つ我にあり(ヴェルレエヌ)」といったところなのだろうか?
 まずは、世にも稀な世界基準のユニット、コーデックス・バルベスの船出にモダン音楽史の証人として立ち会おうではないか!

●10/24(土)「Mémoire de Barbès1」
Codex Barbès × SLY MONGOOSE
ご予約は→http://shinsekai9.jp/2015/10/24/memoire-de-barbes/
●11/20(金)「Mémoire de Barbès2」
Codex Barbès × 松竹谷清トリオ(with エマーソン北村、山口大輔)
ご予約は→http://shinsekai9.jp/2015/11/20/memoire-de-barbes-2/

写真
増井朗人/プロフィール
1963年10月21日 大阪府出身
19才で日本初のダブバンドMUTE BEATに参加。
以後LÄ-PPISCH・THE THRILL・KEMURIなど日本国内のホーンを擁する最重要バンドの数々に参加。名実ともに日本を代表するRock Trombone Master。
MUTE BEATでのUSA公演、LÄ-PPISCHでのフランス・ポーランド公演、KEMURIでの全米ツアーなど海外での活動や、J.B.sのMaceo Parker(Sax)やジャマイカのMIGHTY DIAMONDS・Max Romeoのサポートなど海外アーティストとの共演も。
国内では元ちとせ「わだつみの木」からモーニング娘・アフィリアサーガなどのアイドル、またTHE CHERRY COKESやHOT SQUALL、HEY-SMITH(ホーンアレンジ)などのパンクバンドまで数々のレコーディングに参加。
2014年よりネット動画先行型、そして、3管、2和太鼓、チャップマン・スティックという活動、構成とも世界でも類を見ないユニット「Codex Barbès(コーデックス・バルベス)」を立ち上げる。
尚、Mogulと歴史に関する知識は玄人筋も驚愕な高い水準の持ち主である。

「増井朗人インタビュー番外編/追悼:リコ・ロドリゲス逝去に関し増井朗人が語る」

 上記インタビューは9/7に行われたが、3日前の9/4にレジェンド・トロンボーン奏者リコ・ロドリゲスが亡くなった。
 ここ数日間、病の床に臥せていた増井は、その訃報をこの日9/7の早朝に知ることとなる。
 ミュートビート加入以前のキャリア最初期の道しるべとも云えるリコ。レコーディング、ライブでも競演を果たしたレジェンド逝去のこの時、増井は彼に対し一体何を考えているのだろうか?
 筆者は自身の野次馬根性を恥じながらも、やはり今の増井の心境を訊いてみたくなった。
 このあと意外にも歯に衣着せぬ発言が連発されるが、筆者の拙文ゆえ、その言葉の行間が上手く伝わらずに誤解を産むと拙いので、ここに敢えて一文添えておく。
「全編、非常に沈痛なトーンでの受け答えだった」と。

rico
イラストレーション/エンドウソウメイ Ⓒバットニュース

エンドウ:リコ・ロドリゲスが亡くなりました。

増井:そうだったみたいですね。寝込んでいたのと、最近Facebookも自分が記事を上げてそれに対してのレスポンス以外ではあまり見ないので、今日起きて朝知った感じなんです。

エンドウ:やはり今の増井さんのキャリアにとって、リコは大きな存在だった方ですよね?

増井:ええ、まあ〜……、そうですね。

エンドウ:不謹慎ですが、こんな希有な機会なので、追悼というか、増井さんが考えるリコ・ロドリゲスという希代のミュージシャンについてコメントを頂ければ。

増井:若い時は、(自身のプロフィールの『千葉県立国府台高校にてブラスバンドの勧誘を拒絶。→ロックバンドでドラムを叩くことにする。→2年の時、Reggaeと出会う。→法政大学入学と同時に再びトロンボーンを始める。Rico Rodriguesに憧れて。→19歳の時、MUTE BEATに加入。』部分に目を通しながら)これこれ、こういう時期があったんです。もう一回トロンボーンを再開したのはこの通り、リコが切っ掛けだった。

エンドウ:どの頃のリコですか?

増井:『マン・フロム・ワレイカ』(1976年)ですね。いきなりが。
なので、当然想い入れは凄くあったには……、あったんですが……。(多少、歯切れ悪く)
そう云う意味ではリスペクトは勿論あります。

エンドウ:競演もされてますよね?

増井:競演って云うか〜、何年も前ですけど、リコがいろんな日本人のミュージシャンとやるアルバムがあったんです(『JAPA-RICO RICO RODRIGUEZ MEETS JAPAN』)
それのスペシャルバンドみたいなので、リコと、北原(雅彦/東京スカパラダイスオーケストラ)君、ナベちゃん(渡辺浩司/ex.スカフレイムス)、僕、あと、icchie(市原大資/YOSSY LITTLE NOISE WEAVER)もいたかな?icchieがトロンボーン始めたばかりの頃。

エンドウ:デタミネーションズ後期?

増井:デタミは終わっていたと思いますね。
それでレコーディングをやって、半年後くらいにライブがあって、リコと一緒にやったのは結局その時だけですね。
……正直なところ、……、なんと言うのか、ある意味、「レジェンドというのはこういうものなのか」とは思ったんですけど……、自分が彼を知ってトロンボーをやり続ける中で、もっと他にも、例えばカーティス・フラーだとか、J.J.ジョンソン、フレッド・ウェズリーだとか。
僕より年齢がちょっと下くらいのワイクリフ・ゴードンって奴だとか、「こいつ本当に凄いな!」と感じるプレイヤーと沢山出会ってゆく訳です。
メイシオ(・パーカー)とやったことを切っ掛けにフレッド・ウェズリーと間近でプレイする機会を得たりすると、
「この人(リコ)は進歩しないんだな」と……。
言い方が悪いかもしれないけど、少しがっかりした自分が正直いたんですね。

エンドウ:成る程。
一芸名人というか?

増井:なんか、“吉本の古い芸人”と言ったらいいのか?

エンドウ:クリエーターとは少し生き方が違う?

増井:うん……。
他の人はどう思っているか分からないですけど、僕の中ではリコの後を継げる人間は誰か?というと、
「北原君、ナベちゃん、僕の3人でしょ」って思っているところがあるんですよ。

エンドウ:非常に興味深いお話です。

増井:世界の他の誰でもなく、「僕等3人でしょ」と思っているんです。
で、僕等は彼に憧れていたけど、皆其々、ある意味、「彼を越えちゃっている部分がある」って、一緒にやった時に凄く思って……、複雑な気持ちだった……。
一緒に演奏出来る喜びと同時に、なんか……、残念だな……、っていうのが……。

エンドウ:……。

増井:だから、「お前等まだまだだよ」っていうリコに出会えていたらもっと狂気乱舞していただろうなと……。
「そんなんじゃ〜、全然だめなんだよ。こうだよ!」っていう……。
本当にあの時は複雑な気持ちでした……。

エンドウ:貴重なお話をありがとうございました。
合掌ということで……。

増井:ですね……。

取材/白金高輪「クーリーズクリーク」にて

2015月09月24日