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2012/05/08
徳永京子(Produce lab 89責任者)

“ライブハウスでできる演劇”というスタートラインからリーディングを企画し、ならばエッジの効いた朗読劇を、とエロス系の『官能教育』、観客が目隠しをして聴く『五感overs』を3ヵ月続けて上演してきた。だが、本業が演劇ジャーナリストで、新世界でリーディング公演をするためにProduce lab 89(プロデュースラボ・ハチジュウキュウ)を立ち上げた私は、プロデューサーとしては完全にビギナー。毎回が一杯一杯だ。それが4回目にして、図らずも大仕事をすることになった。9月30日におこなった3回目の『官能教育』に、奥菜恵さんが出演してくれたのだ。

演出を依頼した倉持裕さんが選んだテキストは、夢野久作の『瓶詰の地獄』。幼くしてふたりきりで無人島に流れ着いた兄と妹が、成長するにつれて相手を異性として意識し、禁断の領域を前に苦悩する様子が、兄の手紙によって綴られた短編小説だ。『官能教育』のコンセプトにはぴったり。問題は配役で、通常、キャスティングは演出家にお任せするのだが、妹役が難航した。相談を受けて私の頭に真っ先に浮かんだのが、奥菜さんだった。妹は、登場シーンこそ少ないものの、7歳からおそらく20歳ぐらいまでが描かれ、幼さと艶っぽさ、神様と自然に祝福された美しさ、兄を苦悩させる妖しさと強さが必要になる。奥菜さんが育児真っ最中であること、自分の意志で慎重に仕事を選ぶ人であることは知っていたが、細いつながりに願いを込めて連絡を取った。

そして幸せなことに、この日の『官能教育』は、演劇ファンだけでなく奥菜恵ファンの皆さんにも観てもらえた。妹役の奥菜さん、兄役の近藤フクさんの集中力は、これまでの89のリーディングにはない空気を紡ぎ出してくれたと思う。終演後、倉持さんと奥菜さんが「ぜひまた一緒に仕事を」と言い合っていたのがうれしい。そう遠くない将来、別の形でふたりのタッグが生まれたら、種がまかれた場所は新世界だ。

徳永京子(Produce lab 89責任者)

 

 

2011年10月08日